FTMの戸籍変更・改名ガイド|手続きの流れと各書類の変更方法
最終確認:2026年4月|法改正・実務変更により内容が変わる場合があります。最新情報は市区町村窓口または弁護士にご確認ください。
「戸籍の性別を変えたいけど、何から始めればいいかわからない」
「名前だけでも変えたい。家庭裁判所への申立てってどうやるの?」
「手術なしでも性別変更できるようになったと聞いたけど、本当?」
2023年の最高裁判決により、戸籍の性別変更に関する条件が大きく変わりました。手術要件の一部が緩和され、選択肢が広がっています。この記事では、FTMの方が実際に取り組む「改名」と「戸籍の性別変更」の手続きを、ステップ別に具体的に解説します。
条件や法的経緯については「FTMとは?トランス男性の意味と性別移行の治療法・費用を完全解説」「性同一性障害とは?診断から治療・FTMへの道筋を完全解説」で詳しく解説しているため、この記事は実際の手続き方法と書類変更のステップに絞ってお伝えします。
この記事の内容
まず「改名」か「性別変更」かを決める
戸籍に関する手続きには、大きく2つあります。
戸籍に関する手続きの2種類:
- ① 改名(名前の変更):戸籍の「名前」を変える手続き。性別欄は変わらない。比較的取り組みやすく、診断書なしでも申立て可能なケースがある
- ② 性別変更(性別の変更):戸籍の「性別」欄を変える手続き。特例法に基づく条件あり。精神科の診断書が必須
どちらか一方でも進めることができますし、両方を並行して進めることも可能です。まず「どちらを先に、あるいは両方進めるか」を決めることが、手続きの出発点になります。
改名を先に進める方が多い理由
性別変更には精神科医2名以上の診断書が必要で、診断取得まで時間がかかります。一方、改名は比較的早く動けるため、「まず名前を変えて、日常生活での違和感を減らす」という方が多くいらっしゃいます。
名前の変更手続き|家庭裁判所への申立て4ステップ
名前の変更は、「正当な理由」があれば家庭裁判所に申立てることができます。FTMの方の場合、「性同一性障害のため戸籍名と通称名が異なり日常生活に支障をきたす」という理由が認められやすい傾向があります。
- 名の変更許可申立書(裁判所ウェブサイトからダウンロード可)
- 戸籍謄本(申立て先の家庭裁判所に提出)
- 通称名の使用実績を示す書類(職場のIDカード、郵便物、SNSのやりとり等)
- 医師の診断書(必須ではないが、あると審判が通りやすい)
申立て先は、申立人の住所地を管轄する家庭裁判所です。申立書と必要書類を持参または郵送で提出します。申立手数料は収入印紙800円と切手代が必要です。
申立て後、裁判官が書面を確認し審判が行われます。書面審理のみで終わる場合がほとんどですが、呼び出しがある場合は面談に応じます。期間は申立てから1〜3ヶ月程度が目安です。
審判が確定したら「審判書謄本」と「確定証明書」を受け取り、本籍地または所在地の市区町村役所に提出します。戸籍の名前が変更されます。その後、各種書類の変更手続きに進みます。
通称名の使用実績が重要
改名申立てでは「正当な理由」として、通称名を一定期間使用していた実績が評価されます。職場・学校でのID、会員証、SNSアカウントなど、通称名での使用を示す書類を多く集めておくと審判が通りやすくなります。
戸籍の性別変更手続き|申立てから完了まで
戸籍の性別変更は、性同一性障害特例法に基づいて家庭裁判所に申立てます。改名よりも条件が厳しく、精神科医の診断書が必要です。
◾️ 性別変更に必要な条件(2023年以降)
2023年の最高裁判決を受け、従来の「外観要件(手術により外性器の外観が類似していること)」が違憲とされました。ただし2025年時点では、下級審での審判が続いており、申立てを行う裁判所・時期によって判断が異なる場合があります。最新の状況は弁護士や支援団体に確認することをおすすめします。
性別変更の申立てに必要な書類:
- 性別の取扱いの変更申立書
- 戸籍謄本
- 精神科医2名以上による性同一性障害の診断書
- (ホルモン治療を受けている場合)治療経過の記録
◾️ 申立てから戸籍変更までの流れ
GID学会認定医療機関での診断を受け、精神科医2名以上の診断書を取得します。診断書取得まで複数回の受診が必要で、数ヶ月〜1年以上かかることがあります。
申立書・戸籍謄本・診断書等を揃えて、住所地管轄の家庭裁判所に提出します。
書面審理または面談を経て審判が行われます。期間は申立てから数ヶ月程度が目安ですが、ケースによって異なります。
審判書謄本と確定証明書を持って市区町村役所へ。戸籍の性別欄が「男」に変更されます。
性別変更後に変更が必要な各種書類リスト
戸籍の性別が変更されたら、関連する書類の変更手続きが必要です。すべてを一度にやろうとすると大変なので、優先度の高いものから順に進めるのがおすすめです。
◾️ 優先度が高い書類(日常的に使用するもの)
- マイナンバーカード・住民票:市区町村役所で戸籍変更と同時に手続きできる場合が多い。住民票の性別も変更される
- 健康保険証:会社員は勤務先の総務担当へ、国民健康保険は市区町村役所の窓口へ。新しい戸籍謄本を持参する
- 運転免許証:最寄りの警察署または運転免許センターで変更可能。戸籍謄本と現在の免許証が必要
◾️ 次に優先したい書類
- パスポート:パスポートセンター(都道府県のパスポート窓口)で申請。戸籍謄本・現在のパスポートが必要。新規発行扱いになる
- 銀行口座・クレジットカード:各金融機関の窓口またはカスタマーサポートへ。戸籍謄本もしくは住民票を持参する
- 年金手帳・年金記録:日本年金機構またはお近くの年金事務所で変更可能
◾️ 職場・学校関係
- 雇用保険・源泉徴収票:会社の総務担当に戸籍謄本を提出して変更依頼
- 各種資格証明書・免許:それぞれの発行機関へ問い合わせて変更手続きを確認する
⚠ 変更手続きは「戸籍謄本」が基本
各種書類の変更には、ほぼすべての場合で「新しい戸籍謄本」が必要になります。性別変更が完了したら、まず複数枚の戸籍謄本を取得しておくと手続きがスムーズに進みます(1通450円程度)。
手術なしでの戸籍変更|2023年以降の状況
2023年10月の最高裁判決で「外観要件(生殖不能要件)」が違憲とされ、手術なしで戸籍変更できる可能性が広がりました。ただし、2025年現在も実務上の状況は変化の途中にあります。
◾️ 現状でできることとできないこと
2025年現在の状況(目安):
- 生殖不能要件(手術により生殖不能であること):最高裁で違憲決定 → 手術なしでの申立てが通るケースが増えている
- 外観要件(外性器の外観が類似していること):最高裁で違憲決定 → 同様に申立てが通るケースが出ている
- ただし、審判結果は申立て先の裁判所・審判官によっても異なる場合がある
- 精神科医2名以上の診断書は引き続き必要
「手術なしで性別変更できるか」という問いへの答えは、状況によって変わります。最新の情報と自分のケースへの適用については、GID対応の弁護士や支援団体に相談することをおすすめします。
◾️ 相談できる窓口
- GID学会認定医療機関:手続きに必要な診断書の取得、相談
- LGBT法連合会:法的手続きに関する情報・弁護士紹介
- レインボー法律事務所・性的少数者に対応した法律事務所:戸籍変更の申立てに詳しい弁護士に相談できる
- よりそいホットライン(0570-279-338):24時間、生活全般の相談
転籍で「過去の情報」を整理する
性別変更・改名が完了した後、「元の名前や性別が戸籍に残ったままなのでは?」と気になる方も多いのではないでしょうか。実は、転籍という手続きを行うことで、戸籍から一部の過去の記載を消すことができます。
◾️ 転籍とは
転籍とは、戸籍の「本籍地」(登録上の住所)を別の市区町村に移す手続きです。転籍を行うと新しい戸籍が一から作成され、新しい戸籍には現在の情報のみが引き継がれます。手続きは市区町村役所に「転籍届」を提出するだけで、費用は無料です。本籍地は実際に住んでいる場所でなくてもどこでも設定できます。
◾️ 転籍で消える情報・消えない情報
転籍後の新戸籍から消えるもの:
- 元の名前(改名前の旧名そのもの)
- 旧続柄の記載(「長女」「次女」など、性別変更前に記載されていた表記)
転籍後も残るもの(消えないもの):
- 名の変更があった事実:旧名そのものは記載されないが、「名の変更」として変更日などの記録は新戸籍にも引き継がれる
- 性別変更があった事実:元の性別は記載されないが、特例法に基づく変更として裁判確定日・記録嘱託日の記録は残る
イメージとしては、「何から変わったかは消えるが、何かが変わった事実は残る」という整理になります。
⚠ 転籍のタイミングについて
転籍は性別変更・改名の手続き完了後であればいつでも行えます。戸籍変更直後に転籍する方もいれば、しばらく経ってから行う方もいます。急ぐ必要はありませんが、各種書類の変更手続きが一通り終わってから転籍する方がスムーズです(戸籍謄本を何度か取得する必要があるため)。
◾️ 転籍の手続き方法
日本国内であればどこでも設定できます。現住所と同じ場所でも、思い入れのある場所(出身地など)でも構いません。
現在の本籍地または住所地の市区町村役所に転籍届を提出します。届出できる人は戸籍の筆頭者と配偶者です。印鑑と本人確認書類を持参してください。費用は無料です。
転籍後、新しい本籍地の市区町村役所で戸籍謄本を取得できます。内容を確認し、過去の記載が消えていることを確かめましょう。
⚠ この情報は概要の案内です
戸籍の記載内容や転籍の実務は、市区町村や手続きのタイミングによって細部が異なる場合があります。「自分の場合は何が消えるか」の詳細は、最寄りの市区町村役所の戸籍担当窓口に直接ご確認ください。
よくある質問
Q. 改名と性別変更は同時に申立てられますか?
改名と性別変更は別々の申立てです。同時期に並行して進めることは可能ですが、それぞれ別の書類・手続きが必要です。改名は診断書なしでも申立てできる場合があり、性別変更より比較的早く進めやすいため、改名を先に行う方が多いです。
Q. 改名が却下されることはありますか?
あります。「正当な理由」が認められない場合は却下されることがあります。却下後に改めて申立てることは可能です。通称名の使用実績を示す書類や医師の診断書を揃えておくと、審判が通りやすくなる傾向があります。
Q. 戸籍変更後、パスポートの性別はすぐ変わりますか?
戸籍の性別変更後、パスポートの性別も変更手続きができます。現在のパスポートは返納となり、新規発行の扱いになります。パスポートセンターに新しい戸籍謄本と現在のパスポートを持参して申請します。手続き後、数週間で新しいパスポートが発行されます。
Q. 戸籍変更前でも、職場での性別表記を変えてもらえますか?
戸籍変更前でも、職場との話し合い次第で通称名の使用や名札・システム上の性別表記を変えてもらえるケースがあります。人事担当者やダイバーシティ担当部署に相談してみましょう。大企業では対応の実績がある企業も増えています。
Q. 手術なしで戸籍の性別変更ができるか知りたい
2023年の最高裁判決以降、手術なしでの申立てが通るケースが出ています。ただし審判結果は申立て先や時期によって異なるため、LGBT対応の弁護士または支援団体に最新情報を確認した上で申立てを検討することをおすすめします。精神科医2名以上の診断書は引き続き必要です。
Q. 転籍すると元の名前や「長女」の記載は完全に消えますか?
転籍後の新しい戸籍には、旧名(元の名前)や旧続柄(「長女」など)の記載は引き継がれません。ただし、「名の変更があった」「性別変更があった」という事実自体は、変更日などの記録として新戸籍にも残ります。「何から変わったか」は消えますが、「変更があった事実」は残るとお考えください。詳細は市区町村の戸籍担当窓口にご確認ください。
まとめ
FTMの戸籍変更・改名手続きは、「まず改名(名前の変更)から動く」のがおすすめです。改名は診断書なしで申立て可能なケースもあり、比較的早く日常生活の違和感を解消できます。性別変更は精神科医2名以上の診断書が必要ですが、2023年以降は手術なしで申立てが通るケースも出てきています。
この記事のポイント
- 改名は家庭裁判所への申立て4ステップ。通称名の使用実績が重要
- 性別変更には精神科医2名以上の診断書が必要。2023年以降、手術なしでの申立てが通るケースも
- 戸籍変更後は運転免許・健康保険証・パスポート・銀行口座など順次変更する
- 転籍することで旧名・旧続柄(「長女」など)の記載を新戸籍から消せる
- 最新の手術なし変更の状況はLGBT対応弁護士・支援団体に確認を
戸籍変更や改名は、一度の申立てで終わる作業ではなく、その後の身分証・保険証・銀行口座・学校や職場の登録情報まで連続して変えていく手続きです。名前の使い方、診断書の準備、職場や学校への説明を分けて考えると、抜け漏れを減らしやすくなります。