【FTM向け】男性ホルモン注射の影響と副作用|これから始める人が知っておくべきこと
FTMとしてホルモン注射(テストステロン投与)を始めようと考えている方へ。
本記事では、ホルモン治療による体の変化、メリット・デメリット、そして副作用について詳しく解説します。
1. ホルモン注射とは?(概要)
FTMのホルモン治療とは、テストステロン(男性ホルモン)を体内に投与し、身体的な変化を促す治療法です。主に以下の方法があります。
- 注射(筋肉注射または皮下注射) - 最も一般的な方法で、数週間に一度の頻度で投与。
- ジェルタイプ(経皮吸収) - 毎日塗布する方法で、ホルモンの波を抑えやすい。
2. テストステロン製剤の種類と特徴
テストステロン自体は同じホルモンですが、製品ごとに作用の仕方や持続時間が異なります。以下のような種類があります。
(1) 短期持続型(エナント酸テストステロン)
日本国内で主に使用される短期型のテストステロンには、エナルモンデポー、テストロンデポー、テスチノンデポーがあります。
これらの製剤は速効性があり、投与後2~3日で血中濃度がピークに達し、その後徐々に減少していきます。
- 125mg … 約2~3週間持続
- 250mg … 約3~4週間持続
短期型は周期変動が大きいため、サイクルの終わり頃に疲労やイライラを感じることがあります。
そのため、投与間隔を調整することでホルモンバランスを安定させることが可能です。
例えば、3週間ごとに250mgを投与している場合、125mgを2週間ごとに調整すると波が少なくなります。
(2) 長期持続型(テストステロンウンデカン酸エステル)
長期型の男性ホルモン注射「ネビド(Nebido)」は、ヨーロッパを中心に使用されている持続時間の長い製剤で、血中濃度が安定しやすい特徴があります。
- 1000mg(1回の注射で約10~12週間持続)
海外では3ヶ月ごとに投与されることが一般的ですが、日本では5~6ヶ月の持続が確認されています。高価ですが、頻繁に通院できない方や、ホルモンレベルを安定させたい方に適しています。
(3) テストステロンの塗り薬・ジェルタイプ
日本国内では、男性ホルモンの塗り薬として「グローミン(Gromin)」が唯一販売されています。海外ではジェルやパッチタイプが一般的ですが、日本ではこれらの製品は流通していません。
塗り薬・ジェルタイプの特徴:
- ホルモンの変動が少なく、毎日一定量を補給できる
- 過剰投与になりにくい
- 痛みがない
- 男性化の進行が注射よりも遅い
注射に比べて即効性は低いですが、ホルモンバランスを安定させたい方には選択肢の一つとして考えられます。
(4) その他の男性ホルモン
(4-1) 注射タイプ
◾️サスタノン(Sustanon)
サスタノンは、4種類のテストステロンエステル(プロピオン酸、フェニルプロピオン酸、イソカプロ酸、デカン酸)を配合した製剤です。
特徴:
- 4~5週間に1回の投与(持続時間は個人差あり、一部では5~6週間と表記されることもある)
- ホルモンレベルの波が比較的少ない
- 海外では一般的に使用されるが、日本では流通が限られる
- 子宮・卵巣の有無によって持続時間が変わる可能性あり
(4-2) ジェルタイプ(経皮吸収)
◾️ナテスト(Natesto)
鼻粘膜に塗布するタイプで、1日2~3回の使用が必要。
特徴:
- 吸収率が高く、短時間で効果が現れる
- 頻繁に塗布しなければならないため、手間がかかる
◾️アンドロジェル(AndroGel)
皮膚に塗布し、毎日一定量を吸収するタイプ。
特徴:
- 血中のホルモン濃度を安定させやすい
- 塗布した部分が他人に触れないよう注意が必要(服に触れたり、人に移らないよう配慮)
◾️セルソスジェル
男性ホルモンの補充に使われるジェルタイプの製剤。
特徴:
- アンドロジェルと同様、皮膚から吸収する
- 血中濃度の安定化を目的とし、毎日決まった量を塗布することが推奨される
3. 男性ホルモン注射で起こる体の変化(メリット)
(1) 声の変化
テストステロン投与によって、声帯が厚くなり、声が低くなる。一度低くなった声は元に戻らない。
(2) 体毛の増加・ひげの成長
顔のひげが徐々に濃くなり、腕や脚の体毛も増加。個人差はあるが、1~2年ほどで変化が顕著になる。
(3) 皮脂の増加と肌質の変化
皮脂の分泌が増え、ニキビができやすくなる。ただし、時間と共に落ち着くケースが多い。
(4) 脂肪の分布変化と筋肉増加
体脂肪が減少し、筋肉がつきやすくなる。脂肪のつき方が女性型から男性型へと変化。
3. 男性ホルモン注射の副作用(リスク)と対策
(1) 一般的な副作用
多血症(血液の粘度上昇による血栓リスク)
【副作用】 テストステロンの投与により、赤血球の生成が促進され、血液の粘度が上昇することがあります。これにより、血栓(血の塊)ができやすくなり、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まる可能性があります。
✔️対策
- 定期的な血液検査を受ける(ヘマトクリット値とヘモグロビン値を確認)
- 水分をこまめに摂る
- 適度な運動を取り入れる
- 医師と相談しながら献血を検討
ニキビや皮脂の増加
【副作用】 テストステロンの影響で皮脂腺の活動が活発になり、ニキビができやすくなります。特に思春期にニキビが多かった人は、ホルモン治療を開始すると再びニキビが悪化することがあります。
✔️対策
- 洗顔は1日2回までにする(洗いすぎは逆効果)
- 低刺激のスキンケアを選ぶ
- 油分の多い食事を控える
- 皮膚科での相談も検討
善玉コレステロール(HDL)の低下
【副作用】 テストステロンを投与すると、善玉コレステロール(HDL)が低下し、悪玉コレステロール(LDL)が増加する傾向があります。これにより動脈硬化や心血管疾患のリスクが高まる可能性があります。
✔️対策
- 定期的な血液検査でコレステロール値を確認
- 青魚、ナッツ類、オリーブオイルを積極的に摂取
- 有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリング)を取り入れる
- 加工食品・揚げ物・トランス脂肪酸の多い食品を控える
肝機能の低下
【副作用】 テストステロンの代謝は肝臓で行われるため、長期間ホルモン治療を続けると肝機能に負担がかかることがあります。特に、経口のテストステロン製剤は影響が大きいです。
✔️対策
- 定期的に肝機能の血液検査(AST・ALT・γ-GTP)を受ける
- アルコール摂取を控える
- 脂肪分の多い食事を控える
- 肝機能をサポートする栄養素を摂取
血圧上昇
【副作用】 テストステロンは体内の水分と塩分のバランスに影響を与えるため、血圧が上昇することがあります。特に高血圧気味の人や体重が増加した人は注意が必要です。
✔️対策
- 定期的に血圧を測定する
- 塩分を控えめにし、カリウムを積極的に摂取
- 適度な運動を行う
- ストレス管理を意識する
(2) 投与量と周期の調整
周期変動による体調不良(疲労感やイライラ)を抑えるには、投与量を減らして回数を増やす方法が有効です。
- 例:250mgを3週に1回 → 125mgを2週間に1回へ変更
- ジェルや塗り薬を併用して、ホルモンの波を抑える
4. まとめ
FTMのホルモン治療では、短期型・長期型の製剤の違いや、それぞれの持続期間を理解することが重要です。自身のライフスタイルや体調に合わせた適切な治療を選び、医師と相談しながらホルモンバランスを管理していきましょう。